Intermission 1「シフォン少尉!」「なんだい?おやっさん?!」 ミーティングルームの自動ドアが、滑るように開いた瞬間だった。 「少尉の機体は損耗率が高すぎる!近接戦闘はもっと控えめにせんか?!」 先ほどの戦闘報告書も書き終わり、給弾作業も済み、今回の戦闘データについての検討及び、演習スケジュール打ち合わせの為、ハンガーからミーティングルームに戻ってきたシフォンを見つけると、整備班長のアキジ・コバヤシが開口一番で言った言葉だった。 「いくら格闘専用のサーベルが二本あるからといっても使用には限度がある!」 「無茶はしてるが雑に扱ってはいないはずだが・・・」 少尉の機体の損耗度の原因は彼の操縦技術が未熟なのではなく機体の方が彼の技量に追従しきれないからであった。先の戦闘でもAMBAC(能動的質量移動による自動姿勢制御)システムがフル稼働し、各部の関節に物凄い負担が掛かっていた。MSの手足を積極的に動かし、反動で生まれる力を使うことによって機体の姿勢をコントロールしている。 「話はまだあるぞ、こっちに来い!」 「了解・・・」 戦闘から戻って来るなり、おやっさんの説教を食うと思うと、少しげっそりした。最低一時間は終わらない・・・。既にエリオス准尉、アービス准尉、ミユキ伍長が揃っており、ミーティングルームに入室したのは、レポートの苦手なシフォンがまた最後だったようだ。 そんなアキジ整備班長の横に座っていた大男が両手を白衣のポケットに入れ、こちらを見ている。 「やああ、君がシフォン少尉殿か、怪しい者じゃない」 大男は立ち上がり、懐から名詞を取り出し、シフォンに差し出す。他のメンバーには既に紹介が終わっっているようだ。 「連邦科学局技術開発部第四課主任研究員Drモスク・ハン・・・」 シフォンも消して背が低い方ではない、むしろ高い。175センチのシフォンが見上げる程、モスクの背は高かった。 「科学者なんですか?」 「一応そうなんだが見えんだろな」 自分の酷い事を言ってしまったと思ったが、おやっさんは更に酷い事を言うと思った。 「君の機体の報告書は興味深く拝見したよ、そのうえで、新装備のテストに付き合ってほしいのだが・・・」 通常のパイロットでは、ありえないほどの判断力と操縦技能を獲得しているシフォンには、もはや量産機では対応しきれないレベルであり、搭乗機にはそれに対応させようとする必要があった。 「マグネットコーティング?なんですそれ・・・」 「電磁工学の専門なんだが、MSの駆動系を電磁気で包み込んで動きを素早くするんだ・・・ま、油を注すもんだと思ってくれ」 センサーの精度や、駆動部分・各種関節部分の駆動力・機動力などの向上を図る為の改良作業として、マグネットコーティング計画が持ち上がった。それが、モスク博士が来た理由の一つであった。 「できるんですか?そんな事・・・」 「できる!というか、その為の君達に頼むんだ、失敗しても恨まないでくれ」 「確かに俺達の仕事ですね・・・」 シフォン達、特殊戦技教導隊の主な任務は、単に作戦遂行、単なる敵の撃破ではない。配備されたMSの運用並びに、多くのデータを得るのが目的である。その為には実戦の回数は多ければ多いほど望ましい。当然開発中の実験機などが持ち込まれることもある。以前地上勤務だった時などは、次期構想機として計画された機体の一つで、開発されたばかりの試作型可変MSのテストパイロットをしていた事もあった。 「先ほど簡単に説明しましたが、シフォン少尉にはマグネットコーティング仕様の機体でのデータ収集、アービス准尉には「キタカゼ」で、運んできた「バスト・ライナー」の運用実験テストをしてもらいます」 ミーティング板とハンディ機を操作しながらミユキ伍長が、今後のスケジュールを話し出す。 「うへえ、ホントにこんなの動かすのかよ・・・いい的だぜ・・・」 「バストライナー」のデータを見ながらアービス准尉がぼやいた。エリオス准尉も同じ様な顔つきだったし、シフォンも同じ様な感想だった。 「軍が計画検討されている一つのFSWS(Full armored System & Weapon System)計画は当時「V作戦」で進めていたRX-78の強化案として考えられています。」 苦笑しながらも、ミーティング板を操作しながらミユキ伍長は説明を続けた。 「宇宙戦用の移動用オプション案でMS航続距離の不足や火力不足を補うため、サブフライトシステムみたいです」 「推進剤付の砲台の間違いじゃないのこれって・・・」 アービス准尉が、つぶやくと、 「ぶつくさ言うな!」 ミーティングルームにアキジ整備班長の声が響きわたる。 「だから、おめーらに任せるんじゃねーか!搭載されたメガ粒子砲は戦艦用の大口径・大火力のもので移動砲台としてレンジもばっちりだ!」 「でも、気をつけてください」 ミユキ伍長が、補足説明する。 「長さと質量のため、物凄い慣性を生みます。ですから、自由自在に動き回る事が出来ません・・・」 アービス准尉が、不満げに言った。 「ドッグファイトになったら、真っ先に狙い撃ちだな」 「小回りの利く僕らでカバーしますよ」 よほど乗りたくなかったのか、珍しくエリオス准尉が、皮肉を言う。 「よし、では今から6時間後、テストを兼ねて模擬戦闘訓練を開始するぞ」 シフォンの言葉にしぶしぶ、敬礼してアービス准尉はあきらめた様だ。 |